第3回:法律業務におけるChatGPT活用術その1 活用法編

 

第3回となる今回は、現時点すなわち2023年段階においてChatGPTをどのように法律業務において利活用していくか、またその際の法的な留意点は何かについて、筆者の実践から得られた知見もまじえて説明していきたい。なお、次回は社内ルール編を想定している。

 

1 現時点ではChatGPTに個人情報その他の守秘義務の対象となる情報を入れるべきではない

筆者はすでにChatGPT関連のセミナーや講演を多数行ってきたところであるが、そういった場でよく聞かれる質問として、「ChatGPTに個人情報は入れていますか?」というものがある。弁護士は守秘義務を負うし、企業の法務部門が他部門から信頼されて情報を得る上では守秘を徹底することが前提であることなど、法律業務においては秘密を保持すべき場面も多いので、こうした疑問をいだく人が多いのも頷ける。

この点について、筆者としてはChatGPTのリスクを考え、現時点ではChatGPTに個人情報その他の守秘義務の対象となる情報を入れていないーー。そのように答えると、次にくる質問は当然、「そのような限定的な利用で、役に立つのですか?」となる。

筆者としては、そのような限定的な利用でもーー確かに有用性は限定されるとはいえーーある程度役に立つ利用方法があると考えている。以下、①アイデア出し、②ひな形作成、③ネイティブチェックの3つを取り上げて、説明していこう(その他の活用方法も含め、詳しくは本書第4章を参照されたい)。

 

2 アイデア出し

アイデアを出すことにかけては、ChatGPTはそれなりに有用である。

たとえば法律事務所であれば、「どのようなテーマのニュースレターを出すことで訴求したい顧客層に響くか」などのマーケティングのアイデアや、チームを活性化するための施策のアイデアといったことについては、ChatGPTに聞きさえすれば、多数のアイデアを出してくれる。具体例を末尾の脚注に挙げているのでぜひ試していただきたい*1

企業においても、新しいマーケティング施策のアイデアを出させる、新規サービスのアイデアについて「壁打ち」をさせるなど、これまで企画会議でやっていたようなブレストの一部を、ChatGPTとの対話で代替することが考えられる。

このようなアイデア出しでのChatGPT利用のコツとして、以下の5つをご紹介しよう。

まず、「質より量」である。つまり、ChatGPTの出すアイデアは、しょせんは最大公約数的な、「平凡」なアイデアにすぎない。ただ、人間の部下やアソシエイトに「アイデアを明日の朝まで100個出すように(アイデアを出し切ってから帰宅するように)」と言ったら、それではパワハラになりかねない。しかし、ChatGPTは300個でも500個でも(!)言われたとおりの数のアイデアを黙々と出し続ける。

もちろん、数が多くなると、従前出したアイデアと同じようなものが繰り返されたり(これを「飽和」と呼ぶことがある)、従前のアイデアを単に組み合わせたものを出すようになるが、それでも人間では考えられないような大量のアイデアを出してくれることは魅力的である。要するに、たとえば優れたアイデアが10%にすぎないとしても、100個出させれば10個の、500個出させれば50個の優れたアイデアが入手できるのである。

次に、「専門家である弁護士」とか「その問題を専門とする大学教授」が本を書くので各章のタイトルを列挙せよ、といった形にすることで、体系的にアイデアを出させることがあり得る。

さらに、同じ質問を繰り返したり、異なるエンジンないしバージョンのAIに聞いたり、質問を変えたりすることで、得られるアイデアの範囲を広げる。さらに、それら複数の回答を「反対意見としてこのようなものがあるが、どのように考えるべきか」として相互に検討させることで、よりアイデアを深めていくことができる。

加えて、キャラを指定して「なりきり」をしてもらうことや、役割を指定した複数人の対話を作成させることも、アイデアの質を高めるための工夫になるだろう。

以上を要するに、良いアイデアを得るためにはプロンプトを工夫すること(プロンプトエンジニアリング)に尽きる。そこで、プロンプトエンジニアリングのコツ10選を掲載しておこう。これらについては『ChatGPTと法律実務』第4章でそれぞれ詳しく解説しているので、ぜひご参照されたい。

1 立場の明確化

2 記載するべき内容の明示

3 トーンの指定

4 想定される読者の明示

5 質より量

6 ステップバイステップ

7 複数回実施/複数比較

8 質問を変える/より良い質問を提案させる

9 文体指定

10 英語の利用

 

3 ひな形作成

すでに述べたように、筆者はChatGPTに個人情報など守秘義務の対象となる情報を入れていない。

そのような前提であれば、「ドラフト」、つまり最終的に作成されるべき文書にできるだけ近い内容のものをChatGPTにさせることは適切ではない。しかし、あくまでも「ひな形」――つまりそれ自体は「成果物」としないもの――であれば、守秘義務の対象となる情報を入れずに使える。また企業においても、社内メール、稟議書、社内広報文などの内部利用はもちろん、社外に対して提出する対外的メール、挨拶状、プレスリリースなどのひな形を作成させることもできるだろう。

ここで、法律事務所における利用という観点から、筆者は様々な類型の文章のひな形を作成してみたが、個人的に2023年時点のChatGPTの作成するひな形として最も有益・有用だと考えるのが、英文レターである。

英語のレターをドラフトすること自体は、英語がある程度できる弁護士であれば、ChatGPTなどのAIに頼らなくても、可能といえば可能である。しかし、やはり外国語なので、日本語の場合とは異なる手順や思考を踏まえて準備をしなければならない。ここで、ChatGPTに「ABCがXYZに対して〇〇というレターを書きたい。ABCの代理人であるこの分野の専門弁護士の立場でレターをドラフトするように。」というようなプロンプトを書くと、一瞬で英語のレターひな形が出来上がる。そこで初動が早くなり、非常に便利である。

ここでは、あくまでも「ひな形」に留めることが重要である。たとえば、最初から依頼者名を入れて「そのまま依頼者に提出できる成果物を作ろう」と頑張ることは、そもそもChatGPTにはそのようなレベルのものが作れないという意味でも適切ではないし、また、弁護士の守秘義務という意味でも適切ではない。そこで、筆者は、あえて「ABC」などと仮名でひな形を作らせた後、ワードにコピーして、それから、依頼者名等を入れ、具体的事案に即した加筆をするようにしている。ぜひとも参考にされたい。

 

4 ネイティブチェック

英語のaとtheを直すという程度のネイティブチェックであれば、ChatGPTにhallucination(直訳すれば「幻覚」、ChatGPTの「誤り」一般を意味する)の問題があるといっても、それなりの能力を発揮する。

ただし、次に述べる2点が重要である。

1点目は、たとえば守秘義務の対象となる文書をそのままChatGPTに入れて「ネイティブチェック」をさせてしまうと、まさに守秘義務の対象となる情報を入れることになってしまう。そこで、自信がない1文を、かつ守秘義務の対象となる情報が入っていない(または削除した)ものに限定して、チェックさせるのである。

2点目は、「ChatGPTの回答そのままでは、どこを直したか分からない」ということである。この点は、「Please explain what changes you made and why.」といったプロンプトを入れることで、修正点を明らかにさせるべきである。この点は本記事末尾の脚注にネイティブチェック例を掲載した*2

 

5 まとめ

以上が、筆者の実践に基づくChatGPTの具体的利用方法の一端である。ただし、筆者が知らない有益な利用方法がまだまだ存在する可能性がある。もし読者の皆様がより有益な利用方法をご存知であれば、ぜひともご教示いただきたいと思う(筆者のメールアドレス:mmn@mmn-law.gr.jp)。

 

*1:たとえば、筆者とChatGPTの以下の対話を参照されたい。

筆者:企業法務系の法律事務所がお客様からの依頼を増やすためメールマガジンを発行します。どのようなテーマが良いか、20個テーマを考えてください。

ChatGPT: メールマガジンは読者に価値ある情報を提供し、企業の信頼性を高めるための有効な手段です。企業法務法律事務所の場合、以下のようなテーマが考えられます。

  1. 企業法務の最新トピックと法律改正: これらはビジネスの世界で常に変わり続けるものであり、読者には現在の法律の情報が役立ちます。
  2. 企業の法律リスクマネジメント: リスクを予測し、適切に対処する方法についてのアドバイスを提供します。
  3. スタートアップに必要な法務知識: 新しいビジネスを始めるための基本的な法律情報を提供します。
  4. 労働法の基本: 労働法は、従業員と雇用主の両方にとって重要なトピックです。
  5. 契約法のポイント: 契約を理解し、適切に管理する方法についての情報を提供します。
  6. 知的財産権の保護: 特許、商標、著作権に関する情報とアドバイスを提供します。
  7. データプライバシーとGDPR: データ保護とプライバシーに関する法律の重要性について説明します。
  8. M&A(合併・買収)に関する法律のポイント: M&Aプロセスを理解し、それに伴う法律問題を適切に管理する方法を提供します。
  9. コーポレートガバナンス: 企業の運営に関する法律と規制について説明します。
  10. 不正行為と詐欺からの保護: 企業が不正行為や詐欺から自身を守るための措置について説明します。
  11. 税法の基本: 企業の税務に関する法律の基本を理解するためのガイドラインを提供します。
  12. 企業の社会的責任(CSR)と法律: CSRの重要性とそれに関連する法律について説明します。
  13. 環境法と企業: 企業が環境法を遵守するためのガイドラインを提供します。
  14. 国際ビジネスと法律: 国際的な規制や法律に適合するためのアドバイスを提供します。
  15. 競争法と企業: 競争法の理解とそれによる影響を説明します。
  16. 経営者・役員の法的責任: 経営者と役員が把握すべき法律とその責任について説明します。
  17. 個人情報保護法の解説: 顧客の個人情報を適切に管理し保護するための法律について説明します。
  18. 企業の危機管理と法律: 企業が危機的状況に遭遇したときの対処法と法的な視点からのアドバイスを提供します。
  19. 企業の組織再編と法律: 企業の再編や再構築に伴う法的な課題について説明します。
  20. ITと法律: テクノロジーの進化とそれに伴う法律の変化について説明します。

筆者:企業法務の最新トピックと法律改正でメールマガジンを書く場合、どのような構成で書けばいいですか?

ChatG PT:企業法務の最新トピックと法律改正についてのメールマガジンを書くための一例として以下の構成を提案します。

  1. 題名: メールマガジンの題名は具体的で、魅力的でなければなりません。内容が一目でわかるようにすると良いでしょう。例えば、「2023年7月の企業法務トピックと法律改正について」などが考えられます。
  2. 導入部: メールマガジンの始めには、その月の主要な法律改正や企業法務の最新トピックについての簡単な概要を書きます。読者がこのメールマガジンで何を学べるのか、どのようにそれが彼らのビジネスに影響を与えるかを示します。
  3. 主要な法律改正: このセクションでは、その月に施行された主要な法律改正について詳しく説明します。法律改正の内容、その背景、なぜそれが重要なのか、そしてそれが企業にどのような影響を与えるかを具体的に書くと良いでしょう。
  4. 最新の企業法務トピック: ここでは、その月に注目すべき企業法務のトピックについて深掘りします。これらのトピックは最新の裁判例、法的な議論、新しい法律の解釈など、企業が把握しておくべき重要な情報を含む可能性があります。
  5. 事例研究: 実際の事例を用いて、新しい法律改正や最新の企業法務トピックが実際のビジネスにどのような影響を与えるかを示すと、より具体的で理解しやすくなります。
  6. アクションアイテム: メールマガジンの最後には、読者が取るべき具体的な行動についてアドバイスします。これは、新しい法律に適合するためのステップ、法律専門家と相談するための推奨事項、リスクを回避するための具体的な方法などを含むことができます。
  7. 結び: 最後に、読者に感謝の意を示し、次回のメールマガジンで取り上げるトピックのティーザーを提供するか、またはフィードバックや質問を募るメッセージを含めることができます。
  8. 連絡先情報と購読解除リンク: 連絡先情報と共に、購読を解除するための明確なリンクを提供することを忘れないでください。これは、メールマーケティングのベストプラクティスとして、また法律に準拠するためにも必要です。

    *2:恥を晒すようだが、筆者のネイティブチェック例を以下に掲げておく。

    筆者:"Recently there is a new supreme court judgment on the discrimination by the university of the applicants based on their race and although the judgment held that the admission based solely on the race itself is unconstitutional, it is possible that the unique experience or other uniqueness which the applicants have acquired in relation to the race can be considered." Please change the wordings of this sentence into a professional and natural one, as if it were written by a law school professor in the U.S. Please explain what changes you made and why.

    ChatGPT: Revised Sentence:

    "A recent Supreme Court decision has determined that admissions decisions made exclusively on the basis of race are constitutionally unsound. Nevertheless, the ruling acknowledges the constitutionality of considering the distinctive experiences or unique attributes that applicants may have acquired in connection to their racial backgrounds."

    Explanation:

    1. Tone and Formality: The revision employs more formal language that you might expect from a law professor. Words like "recently," "judgment," and "new" are replaced with "recent," "decision," and "determined," respectively, enhancing the professional tone.
    2. Clarity and Conciseness: The revision also seeks to improve clarity by breaking down the long, complex sentence into two simpler ones, making the ideas easier to understand. Phrases like "based on their race" and "although the judgment held" are reframed for conciseness and clarity.
    3. Word Choice: Some word choices were adjusted for professional context. For instance, "uniqueness" was replaced with "distinctive experiences or unique attributes," and "university of the applicants" was replaced with "admissions decisions." The latter was used because it more accurately reflects the subject matter: the court's decision applies to the admissions process, not to the university as a whole.
    4. Structuring: The sentence was restructured to ensure a smooth flow of ideas. It begins by stating the main finding of the Supreme Court decision, and then moves on to the secondary point, which is the constitutional permissibility of considering race-related experiences and attributes. This ensures the most important information is presented upfront, a common practice in legal writing.
    5. Grammar and Punctuation: The use of punctuation was revised to provide better sentence structure and coherence. This includes the addition of a period to separate the two main ideas. This improves readability and further ensures the reader understands each point separately.
    6. Passive Voice: The original sentence is in passive voice ("judgment held"), which can obscure who or what is performing an action. In the revised sentence, we have used active voice ("the ruling acknowledges") to clearly convey that it's the ruling itself acknowledging the constitutionality. Active voice is generally preferred in professional writing for its clarity and directness.

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