
2023年に初版が刊行された『ChatGPTの法律実務』が、好評につき約2年を経て増補版となった。初版刊行後の2年で、たとえば仕事や日常生活に限っても、Copilot/ NotebookLM等の業務利用の進展やスマートフォンにおける生成AIの組み込みなど、AIをめぐる多くの変化が起きている。その中で本当に本書の増補版というものを出す意味があるのか――と、筆者は少なからず悩んだところである。というのも、もし本書の本質的な内容が古くなっているのであれば、絶版にするか、大規模に改訂しなければならない。しかし熟慮の結果、(細かいChatGPTのバージョン等の話はともかくとして)やはり本書の内容の本質は全く古くなっていないと判断した。
そこで、多少の補足をすることで増補版とすることも考えられると最終的に決断し、増補版の刊行に至った次第である。増補版では、各章のテーマに関係する補足事項を「その後の動向」として各章末に付することとし、既存の各章の記載は基本的には修正していない。そこで、筆者としては、すでに初版をお持ちの方に買い替えていただくというよりは、「新規読者」の方に是非ともお読みいただきたいと考えている。
主な補足点は以下の3点である。
1つ目は、何といっても「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」(いわゆる「法務省ガイドライン」)(https://www.moj.go.jp/content/001400675.pdf)が初版刊行直後に公表されたことである。刊行時期の関係で、初版はこの法務省ガイドラインについて触れることができなかったのであるが、このガイドラインによって、まさに「どこまでのリーガルテックを法的に問題なく提供できるか」が明確になったことで、リーガルテックはその範囲でますます弁護士・法務担当者を便利にするために発展することとなった(プラットフォーム化が進み、さまざまなサービスが1つのプラットフォーム上で提供されるようになったのはその例である)。
なお、法務省ガイドラインでは、いわゆる個別の事案に応じた法的リスクの有無やその程度を分析・表示するものや、法的処理をするものが弁護士法第72条の「鑑定」等に該当するとする。これを「窮屈」と見る読者もいるかもしれない。しかし実際には、法務省ガイドライン上、それが「弁護士・法務を不要にする」ようなリーガルテックは制限されているものの、「弁護士・法務担当者の支援」としてのリーガルテックはかなり幅広く認められている。そこで、AI・リーガルテックがますます弁護士・法務担当者を「支援」していくだろうという本書の予想は、法務省ガイドラインで実証されたともいえる。
ちなみに、初版刊行当時に筆者が代表理事を務めていた「AI・契約レビューテクノロジー協会」は「AIリーガルテック協会」へと名前を変え(筆者も代表理事を継続)、「リーガルテックとAIに関する原則」を公表した(https://ai-legaltech.org/legaltech-ai-principle)。この名称変更も、近年の状況変化を象徴していよう。
2つ目は、AIに関する法律解釈が整理がなされてきたことである。たとえば著作権であれば、「AIと著作権に関する考え方についての考え方」(いわゆる「考え方」)(https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/94037901_01.pdf)が公表された。この点についてはとりわけこの2年間の変化が目まぐるしく、本来なら著作権法を扱う第3章は、大幅なアップデートが必要である。増補版という制約からこれは叶わなかったが、筆者の近刊『生成AIの法律実務』(弘文堂、2025年)に詳しく記したところであるので、著作権に関心のある方は同書をご覧いただきたい。
3つ目は、キャリアデザインの重要性がますます意識されるようになったことである。つまり、AIが利用される中で、法務担当者や弁護士の仕事は必ずしも奪われないものの、その仕事のスタイルは大きく変わる。その結果として、将来のキャリアを自分で考え、それに基づきリスキリングをすること等が重要になっているのである。たとえば、学習院大学は法学部でキャリア教育を行うことを決め、筆者は2024年から同学部キャリア教育担当特別客員教授に就任した。
これらを含むこの2年の変化を補足した増補版が、多くの新しい読者の方にお読みいただけることを期待している。
ChatGPTと法律実務
―AIとリーガルテックがひらく弁護士/法務の未来 [増補版]
松尾 剛行 著